第1章 死を運ぶ文鳥
私と透は付き合っている。
とても優しい人で、私なんかには勿体無いくらいだ。
他愛もない話をしながら、ふと思い出したあの噂の話をした。
「それ、俺も知ってる。香織は信じてるの?」
「いやいや、信じてないよ。だってあり得ないでしょ。そんな鳥いるわけないって」
透は「そうだな」と笑った後、空を見上げた。
「でも案外、本当かも知れないよ」
その言葉に、悪寒が走る。
何だろう、この感じ…。
凄く、嫌な感じだ。
「なんてね。じゃあ、また明日」
透は手を振り、十字路を右に曲がった。
私も手を振り返し、真っ直ぐ歩き出す。
その日の夜。
私は自分の部屋で勉強をしていた。
「疲れたぁー…」
ひとつ伸びをしてシャーペンを置く。
その時、丁度透からメッセージが届いた。
『勉強捗ってる?』
それに「うん。今休憩中」と返信し、席を立つ。
空気を入れ換えようと思い、窓を開けた。
その時…。
バサバサと、何かが目の前に降り立った。
「な、何!?」
驚き、後ろに飛び退く。
よく目を凝らし、それを見つめた。
「…黒い、鳥?」
背景と同化していてよく見えない…。
けど、確かにそこには黒い鳥がいる。
「烏、か何か?にしてはちっちゃい様な…」
黒い鳥は、私えをじっと見つめている。
おそるおそる近付き、手を伸ばす。
その鳥に触れそうになった時。
突然黒い鳥が鳴き出した。
「な、何なの!?」
バサバサと羽をばたつかせ、鳴き続ける。
その耳をつんざく様な鳴き声に堪えられなくなり耳を塞いだ。
一頻り泣いた後、黒い鳥は飛び去り闇へと消えていった。
「一体、何だったの…?」
鳥が飛び去った方向を見つめていると、ふとあの噂が頭をよぎった。
まさか、ね…。
だって、あんなモノ存在する訳ないし…。
そう考え込んでいると、コンコンとドアがノックされた音が響いた。
「は、はい!?」
がちゃりと、弟の忠が部屋に入って来た。
「姉ちゃんご飯。どうしたの変な声出して」
「……何でもない。ねぇ、忠」
「ん?」
「……あんた、『死を運ぶ文鳥』の噂、知ってる?」