第1章 死を運ぶ文鳥
「うわぁぁぁああ!!」
「香織!」
刺される…!
そう思い、反射的に目を瞑った。
が、いっこうに痛みは訪れず、少しの静寂が私たちを支配した。
目を、おそるおそる開けてみる。
「あっ……」
目の前に見えたのは、私を庇う様に立ち塞がった透の背中。
「透…?」
呼び掛けるが、返事がない。
「透さん!」
忠が透に駆け寄るのと同時に、彼の体は崩れ落ちた。
忠は体を受け止め、ポケットからハンカチを取り出す。
そして、血が出ている患部におしあて止血し始めた。
「うそ…私、そんなつもりじゃ……透くんを刺すつもりじゃなかった……」
震えるみゆの手には、血に染まったナイフが握られている。
状況を理解し、私の中で何かがプツンと、音を立てて切れた。
「みゆ!!」
私が、みゆに掴みかかろうとした時。
「姉ちゃん!!」
忠のよく通る声が、私の耳に届いた。
「今は、そんなことしてる場合じゃないだろ……!」
普段忠がしない、焦ったような、怒ったような表情。
そのおかげで、少し冷静さを取り戻した。
「ごめ………透は…」
「今止血してるけど、血の量が半端ない。呼吸も細いし、持つかどうかは…」
透に近寄り、顔を覗き込む。
辛そうに、呼吸を繰り返してる。
透、死なないで。
一緒に生きてよ…。
「……香織…」
「透!」
か細い声で、私の名を呼んだ。
手が、私の頬に触れる。
「ごめんな……守ってやれなくて…。何も、出来なくて…」
「そんなことない!」
私は、ぎゅっと透の手を握った。
「透は私のこと守ってくれたよ。いつも、気にかけてくれて優しくしてくれた。私はそんな透が好きなの、だから、まだ一緒に居ようよ…」
透は弱々しく、でも確かに、私の手を握り返してくれた。