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死を運ぶ…

第1章 死を運ぶ文鳥


「……ありがとう、香織…。幸せだったよ…」


そう言って、一筋の涙を流した瞬間、私の手を握り返していた透の手が脱力した。


「透?」


眠った様に目を閉じている。


「姉ちゃん…。もう、脈が…」


分かってる。

だけど、透の名前を呼び続けた。

信じられなくて、いつもの様に返事をしてくれると思って。

何度も何度も、名前を呼んだ。

でも、返事が返ってくる事はなくて、私は泣き崩れた。

そして、黒い羽が、舞い降りてきた。


「ごめんなさい……ごめんなさい…ごめんな、さい……」


壊れた様に、みゆがずっとそう呟いていた。


「透くん……ごめんなさい……!」

「みゆ!」


みゆが、屋上から走り去っていった。

追い掛けようとしたが、忠に止められた。

「いったん落ち着いて」と言われ、冷静さを取り戻す。


「姉ちゃん、とりあえず救急車呼んで透さんを病院に送ろう。そこで何とかしてくれるはず」


私は頷き、もう一度彼の手を握った。

冷たい…。

透の泣いたところ、初めて見た。

それだけ、辛かったってことなのかな。

生きなきゃな、透の代わりにも。

里子や、お父さんやお母さんのためにも。


「姉ちゃん、今救急車呼んだ」


携帯をポケットに仕舞った忠は、倒れている透の体を持ち上げた。

校門前まで行くと、丁度救急車が到着して、遺体が乗せられ出発した。

私たちは、とりあえず家に戻り、それからみゆを探しに行くことにした。

今彼女をひとりにしておくのは危険だ。

透を殺した、憎むべき相手かも知れないけど、それ以前に私の、大切な友達だから。
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