第1章 死を運ぶ文鳥
数時間後のことだった。
慌てた様子で忠が部屋に入ってきた。
「ね、姉ちゃん、大変だ」
ドクンと、胸が鳴る。
「父さんが病院に運ばれたって、今会社から連絡があった…」
「お父さんが…?」
もしかして、また…。
またなの?
私は立ち上がり、ハンガーにかかっているパーカーを手にとった。
「姉ちゃん何処行くの」
「決まってる、お父さんのとこ。何処の病院に運ばれたの?」
「姉ちゃん落ち着いて、俺の話最後まで聞いて」
「そうだよ香織。まずは落ち着こう」
透に腕を掴まれ、冷静になる。
そうだ、こう言う時こそ冷静にならなきゃ。
「ごめん…」
「……病院には運ばれたけど、まだ息はあるらしい。でも、いつ呼吸が止まるかも分からない状態だ…って」
「そんな…」
私のせいで、お父さんも死んでしまったら…。
そしたら、いずれは透と忠も…。
「ごめんね…。私が文鳥の鳴き声を聞いてしまったばっかりに…。私が何とかしなくちゃ、もう誰も死なせちゃダメだ、もう誰も……」
私が、何とかしなくちゃいけないんだ。
もう誰も傷つけないために。
死なないために…。
「香織!」
透に肩を掴まれた。
「もう、ひとりで背負わなくてもいいんだよ」
そこで、ハッと我に返った。
「事情を知ってるのは、もうお前ひとりじゃないから。俺も、忠くんも知ってる。ひとりの戦いじゃないんだよ」
ひとりじゃ、ない。
自然と、涙が溢れた。
「…ほら、大丈夫だから。涙拭いて。俺はここに居る。お前の側に居る」
袖で涙を拭ってくれた透は、「だから…」と続けて笑った。
「泣かなくても、いいんだよ」