第1章 ラブシーン 前編
「それでね……」
ナオは恥ずかしそうにうつむいたまま話を続ける。
「俺、そういう経験ないから……。あの、ユウちゃん、俺とちょっと……、してみてくれない?」
私はしばらくナオの顔をじっと見て、何を言われたのか考えた。
「えーっ! キスシーンの練習を私とするってこと?」
「うん……。ダメ?」
ナオは私の目をじっとのぞきこんだ。
あらためてナオに見つめられると少しドキッとした。
「ダメというか……。私も経験ないし、私は役者じゃないんだからそういうのは好きな人とじゃないと無理だよ」
私がそう答えると、ナオは急に悲しそうな表情をした。
「ユウちゃんは……、俺のこと好きじゃないの?」
「えぇ? いや、その好きっていうのはそういうんじゃなくてさ……」
なんて言ったらいいのか言葉につまっていると、ナオが先に話し出した。
「俺たち3年も付き合ってるのに……、まだキスもダメ?」
その言葉に私は心の底からびっくりした。
「えっ!?」
私がびっくりして声を上げると、ナオもちょっとびっくりしたように顔を上げて言った。
「え? 何?」
「付き合ってるって……、私とナオが?」
「え? うん」
「いつから?」
「3年? 中学卒業したときだから……」
「え、えぇー?」