第1章 ラブシーン 前編
駅から5分ほど歩くと、ナオの部屋があるマンションに着いた。
「わぁ、広い。それにすっごく片付いてるね」
「高校のときは寮だったから、やっと一人暮らしできて張り切ってるんだ」
「いいなぁ。わたしもこれぐらいの部屋に住めたらなぁ」
私は自分の狭いワンルームマンションを思い出した。
これぐらいの広さがあればもうちょっと片付くのになぁ、たぶん。
「今度、ユウちゃんの部屋にも行っていい?」
ちょっと甘えるような目でナオは私の顔をのぞく。
「ん……、まあそのうちね。まだ引越してきたばかりで片付いてないから」
私がちょっと考えてそう答えると、ナオはちょっと残念そうな顔をした。
「そっかぁ、大学の一年生って忙しいんでしょ?」
「そんなでもないよ。水曜は午前だけだし。バイトでもしようかな」
「バイトかぁ。なんか大学生って感じだね。俺もそろそろ大学生の役とかあるかもしれないし、いろいろ教えてね」
「うん、もちろん。ナオも大学とか行きたかった?」
「ううん、俺もともと勉強とか好きじゃないし……。やっと高校卒業して思いっきり仕事できるようになってうれしいんだ」
ナオは満面の笑みでそう答えた。何の迷いもないような。
単純なナオのことだから、テレビに出たいってだけで俳優になったと私は思ってたんだけど。
なんだか急にナオが大人になったような気がした。