第6章 過去が今に変わる
教室へ戻るとユーカが私を待ち構えていた。
「アズサ何処行ってたの?」
「...うーん。化学の先生? それ見に行ってきたの」
「え? あんたが? 意外。」
彼女はとても驚いた様子だった。そこで学生時代はあまり行動派ではなかったことを思い出した。
ああ、しまった。と思ってみたものの彼女はそこまで気にしていなかった。
彼女の想定していなかった私の奇異な行動よりも新しい先生に興味がある様子。優しそうで既に女生徒に囲まれていたことを伝えると彼女は見るのが楽しみって言ってた。
その後も3時限目と4時限目の休みはユーカのどうでもいいドラマ議論で終わり、喫煙欲求に駆られながら昼休みを迎える羽目になった。
お昼ご飯は天気がよければいつもユーカと中へに通っていた。多くの生徒がいる大きな広場から少し離れた静かな木陰のベンチが私達の指定席。
たまにユーカの入ってる調理部の子や体育が一緒になる文系クラスの友達が混じることもあるが基本2人。
いつもの指定席でお弁当を広げると彼女は私の手元を注視した。
「お弁当箱変えたんだ。かわいい」
「でしょ?」
クロサワからとりあげた私の旅人お弁当箱をユーカに見せびらかした。
あんな赤い変な女の子よりもずっとずっと可愛い。
「アズサ、お弁当作れるようになったんだね」
「まあ、そう......かも」
本当は、あの朝の後輩が作りました。そんなこと、絶対言えない。
罪悪感に押しつぶされながらも言葉を濁しクロサワが作ったお弁当を広げた。
ナポリタンと小さなハンバーグに野菜のお浸し、くるくる巻かれた玉子焼き、プチトマトと飾りにパセリ。
平らなご飯のうえにふりかけがかかってた。
お子様ランチのような彩りにクロサワが怖くなった。
彼がこのようなものを好むとは到底思えない。身に着けているものはシンプルなものが多く、先日彼が買った私服もそんな感じだった。それなのに何かと可愛いものを買うのは私に合わせているのだろう。別に好きじゃないけれども。
このお弁当だって、あのマグカップだって、きっと鞄に付けられたキーホルダーだってその通りだと思う。
でも、可愛すぎだろ。クロサワもこれじゃ可愛らしすぎておかしい気がする。その辺はあまり気にしてないのだろうか。