第6章 過去が今に変わる
2限目が終わった。長かった。長すぎた。待ちに待ったこの時間。
何処に行くのか訊ねるユーカを適当に誤魔化し、化学室に向かうと白衣を着たオーナーは既に多くの女生徒に囲まれていた。
元々若い教師が少ないのもあるだろうが、これは異常。さすがオーナー。そしてさすが行動力のある若者、女子高生と言ったところか。
「タチバナさん。奥どうぞ」
女生徒の質問攻めに困り顔の彼は私に気が付くとそう声を掛けてくれた。
彼女たちの痛い視線を浴びながらもオーナーに軽い会釈をし足早に準備室に向かう。
教材や実験器具で埋め尽くされている部屋。
一箇所だけ妙にスッキリしたテーブル、そして椅子が3脚。ドアからは本棚の陰になり見つかりにくそうな場所だった。
そのテーブルの上には灰皿と煙草が2箱、マッチ箱が1個。
灰皿には吸殻が2つとマッチの棒が2本。その隣の煙草は私とクロサワが各々に指定した銘柄だった。
クロサワのものは封が切られており、彼が此処に来た事は一目瞭然だった。昼まで大丈夫とか抜かしていたのは何だったのだろう。
彼は私のいない此処でどんな話をしたのだろうか。
私に準備してくれてたであろう煙草を咥えながら、ぼんやりとそんな事を考えてはみたが何も浮かばなかった。