第6章 過去が今に変わる
居ないものと扱われてたので前の学生時代なら絶対にしなかっただろう。
しかし今の私は大人なのだ。利用できるものは利用しないわけがない。
それに私は彼をよく知っている。
高校時代はろくに話もしなかったが数年後偶然再会し、確か好きな映画監督の話で意気投合。それがきっかけで一時的ではあったものの頻繁に会っていた。
その監督の映画のDVD全部持っていると言われ、なかなか見つからなかった映画を彼の家で見たことがあった。
数回肌を重ねたが彼は最初のとき最中に ご丁寧に名前で呼んでいいか 許可を求めた逸材。
オーナーから 名前紳士と言う名誉ある実験体名を授かった。
しばらくすると彼の仕事の都合上遠くの街に引っ越した。私たちの縁もそれまでだった。
こちらから連絡はしない主義なのでそれはそれで実験終了になった物件だ。
まあそんなこと今はどうでもいいから助けてくれよ、名前紳士。
彼は自らのノートに赤い線を一本引き教師の見えないところでさっと私に手渡した。
私はその赤い線の引いてある文章を読む。
一見かわいらしいが筆圧の強い男の子っぽさのある字をしていた。
「素晴らしい。そうですね、その訳がベストです」
ノートの貸し借りに気付かなかったらしい英語教師は満足そうに頷いて解説を始めた。
私は彼に借りたノートの端に消せるようにシャーペンで薄く、
『とても助かりました。ありがとう タチバナアズサ』
と出来る限りの丁寧な字で書き 教師が黒板に何やら書き込む途中で彼にノートを返した。
私の書いた文字を見てにこりと笑った彼。
高校のときからいいやつだったのか、と元クラスメイト、いや現クラスメイトの意外な一面を見つけた気がした。