第6章 過去が今に変わる
「アズサちゃん引っ越したの?」
ユーカにどんないいわけをしようか考えていると、クラスで一番人懐っこい女の子が話しかけてきた。
「そうなの。お父さんが海外転勤になって置いてかれたからついでにマンションに」
「女の子じゃ一軒家だと相当セキュリティしっかりしてないと心配だもんね」
彼女は何だか思いもよらぬいい解釈をしてくれた。今度聞かれたらそう言うことにしようと思う。
海外転勤と言うのは事実らしいし、マンションに住んでいるのも事実。出来る限り嘘をつきたくないと思っていたので好都合だった。
何処に引っ越したか聞かれたので2人で廊下に出て一際高いマンションを指差した。私がここを決めたときは他にも高い建物があったが今はそれらが建つ前のようだ。
今度遊びに来たいと言われたので引越の荷物片付けて落ち着いたらと約束した。心のなかで クロサワが居ないとき と付け足して。
そして私は今緊急事態である。
1時限目の英語。
英語は人並みに出来るし大学では英論文を書かされてた。
仕事でもたまに使ってた。だが そう言うことではない。
それ以前の問題。私がこの生活で一番心配してたことが既に今起きている。
この学校は1コマ50分。授業開始から30分しか経ってない。仕事ならば集中して過ごせるのでここまで早くこの欲求が来ない。
だが暇すぎるんだ。
過去の高校時代よりかなり真面目に板書した。
オーナーの用意したシャーペンの芯の濃さが好みじゃない。
ペンもこれじゃなくてもっと安物のが良かった。
そういえば通勤バッグにペン入れてたから明日からあれ使おう とか考えて自分を誤魔化すも もう限界だ。
煙草吸いたい。
駄目だ。考えれば考えるほど苛々してきた。
吸えないのに吸いたい。この環境がまた欲求を増させる。
落ち着け。落ち着けアズサ。私は出来る子だ。私は出来る子だ。
「タチバナさん。じゃあ此処訳して」
私は自分で自分を誤魔化そうとすることでいっぱいいっぱいだった。
急に当てられ、慌てて当該箇所を探すも見つからない。
ふと近くから視線を感じ見下ろすと隣に座る男子生徒がこちらを見ていた。
丁度いいと彼に、目で助けを求めた。