第1章 ここから始まった
「渡り廊下から、見てた」
解けきった氷を追加したオーナーをカウンターに突っ伏しながら見る。
「...教室の窓から見える渡り廊下
多分、私と同じ進学クラスの、理数系」
あの頃の幼くて純粋で、
でも、何にも考えてなかった頃の自分を思い出した。
「1個下だったんだと思う。
他のクラスメイトより頭半個分くらい背が高くて、いつも笑ってた。
遠くから見ていた。はじめは背が高い子だなーくらいも気持ち。
いつの間にか探すようになってた。それって恋だったのかなー。」
空っぽのグラスをカラカラと回すとオーナーがボトルから継ぎ足してくれた。
「名前も知らないのに、何か気になっちゃって。
その人、一度だけ名前呼ばれてるの聞いたんだけど、聞いてなかった」
「なんだそれ」
呆れ顔のオーナー。たしかに、なんだそれ。だわ。
「正確に言えば、名前を呼ばれて表彰されて、始業式かなんかの時に前に立ってたことがあった。
あ、そうそう、テニスの大会。
なんか、テニス部だったらしい。思い出した!」
じわじわとあのときのことを思い出してきた。
背の高い彼は他の生徒と並んで少し恥ずかしそうに下を向いて壇上に登っていた。
他のスポーツで表彰された生徒と比べて肌の色が白く、とても儚く見えた。
屋外スポーツなのに、肌が弱かったのだろうか。
「オーナー、私分かった。さっき年下って言ったけど違う。
私、あのときの彼に興味持ってるのかも!
あのときの彼とやりたい。多分。
私が見ててばかり。
だから向こうがこっち見てくれたらどうなるんろうって、思ってたの思い出した。
私の研究の原点、それなのかもしれない」
コホン、私が立ち上がった瞬間ちょっと向こう側から咳が聞こえた。
外に出て行った彼はいつの間にか戻ってきていて空のグラスの氷を指でくるくると回している。
気まずそうに彼は一言。
「これ、同じものと、 灰皿 頂けますか」