第6章 過去が今に変わる
クラスメイト達はその声の主に注目する。
クラスメイト全員にとってクロサワは後輩なのだから先輩と呼ばれればみんなそうだ。
彼はみんなの視線にびびりながら あ、すいませんって謝ってた。
彼の恐縮具合につい大きく笑ってしまったことでその目線は彼から私に移る。
その間は一瞬。笑ったのは私だったことを確認したクラスメイト達は各々の行動に戻っていった。
「先輩。鞄」
クロサワは私の方に歩いてきて鞄を机の上においた。赤い猫がついていた。彼がくれた小さな私の目印。
一方私の机に掛けられた鞄には彼の目印である黒い猫。
どうやら鞄を取り違えてたらしい。
「ごめん。間違えたみたい」
「いえ、俺が間違えたんで」
「そう、じゃあ私は悪くないね」
私の机の横にある鞄を持ってクロサワは少し笑った。照れ隠しみたいなはにかむ笑顔。当時は私に向けられることはなかった顔がそこにあった。
「あまり目立ちたくないんで戻りますね」
「同感。既に注目の的だけどね」
廊下まで彼を送るために並んで歩くと背中に少しだけ視線を感じた。
私が席に戻ると直ぐ様ユーカがやって来た。
「今の子。誰? 同じ中学じゃないよね」
同じ中学でもない、即ち何の接点もなさそうな後輩が私を訪ねてきた事がとても興味深いようだった。
ユーカとは小学校からずっと一緒だ。
高校に入るまでは特に仲良くしたことはなかったのだが、それから仲が良くなった。
他に同じ中学の子は確か数人いたような気がするが記憶は曖昧だ。
彼女とは同じ高校だったものの卒業してからは1年に2-3度近況報告をする程度。決まって、仕事や男の愚痴を零しながらも思い出話に耽っていた。
暫く経つと彼女は結婚し遠くに嫁いでしまった。それからは会えずにいる。
結婚式には呼ばれたので仲がいい友達だったんだと思う。
今の彼女はそんなことすら知らない。
それを知ってる私の前に何も知らない彼女がいると思うと知りすぎたことへの優越感と罪悪感が入り交じる微妙な気持ちになった。
「何?聞いちゃいけなかった?」
ユーカに気まずそうな顔をさせたとこで担任が教室へ入ってきた。
私の心意とは異なり、何かいけないことを聞いてしまったと思ってしまったのであろう。
「ユーカ、あとで話すね」
そんな私の言葉にユーカは明るく笑い自分の席に戻っていった。