第6章 過去が今に変わる
スカートも穿いた。穿いたけど、スウェットが脱げない。
ここまで来てまだ勇気がない。あと5分で出ないと間に合わないというのに、私は変なところで意地っ張りなのだろう。
クロサワがため息ついてソファの座面を叩いた。
「こっちおいで」
先程の子供みたいなトーンではない本来の彼の落ち着いた声。
何故だか反抗できず、恐る恐るそこに座る。
彼の指定した場所に座ると体を横にされた。足をクロサワの膝の上に移動させられてスカートの中に手を入れられる。
「そんな脱ぎたくないなら俺が脱がしますよ」
先程とは違う高いトーンに戻った。彼は声色の使い方を気分で変えるのだろうか。それとも其れが普通の仕草になっているのだろうか。
咥え煙草のクロサワにそのままスウェットが引っ張られた。
ぞくぞくと鳥肌がたつ。なんかイヤラシイ感じがした。
だけどクロサワは淡々としていてそのまま靴下まで穿かせ私に煙草を差し出した。
煙草を無理矢理口に押し込まれ何度目かのシガーキス。
「早くニコチン補充してください」
初日から走って行くのかよ、そう呟いたクロサワの顔は子どもなのに色気があった。
朝っぱらから何考えてるんだ私。
飲みかけの珈琲を一口貰って煙草を吸い終えるとクロサワを追いかけて玄関へ向かった。
既に靴を履き、鞄を2つと小さな紙袋、そして学ランを持った彼は私を急かした。
「早くしてくださいよ」
昨日バルコニーに出されてたローファーは玄関に用意されていた。
家の鍵をかけ、マンションのエレベーターを待つところ。
彼から鞄を貰おうと手を出すと彼はにこりと笑った。
「今日だけは学校まで持っていきますよ」
「ありがと」
なかなかの紳士である。