第5章 したかったこと side M
食事を並べているとタチバナさんがグラス1個とと新しいビールの缶を持ってきた。
また飲むのか。さっき飲んでいたものは俺が料理している間に飲み干していたらしい。
俺の目の前にグラスが置かれ、そこにビールが注がれる。
「お料理、ありがと。イタダキマス」
ガサツで乱暴なくせに ちゃんと単語に『お』をつけてたり、感謝や挨拶はきちんとしたり、タチバナさんはよく分からないところで丁寧な感じ。
丁寧に手を合わせて「いただきます」なんか、すごくかわいいな、って思う。
「いただきます」
俺は彼女の真似をした。こちらを見てにこりと笑う。
そして、また「イタダキマス」って言ってた。
俺がビールを飲み始めてから、彼女も缶に口をつけた。
まあ、さっき、1缶飲んでたけど。
俺が箸を持ってから彼女も箸を持つ。こういう行動ってなかなか出来ないと思う。
彼女はそれを習慣としてやっている。
俺がお客様扱いされてるだけだと思うが、なんだかカッコいい。
「クロサワくん、お料理好きなの? すごく美味しい」
「そうですか? 有難う御座います」
切っただけの野菜とそれをもう少し細かく切って茹でただけのスープ。そんなものを料理と表現した。まあ誰だって誉められるのは嫌じゃない。俺だってその通りだ。
誉められついでに昼食について聞いた。
学生時代は母親が弁当を作ってくれていた。朝早くに起きて毎日かかさず朝出掛ける頃には当たり前にダイニングテーブルの上には弁当があった。有り難さを知ったのは家を出てからだ。そんな楽をして学生生活を送っていたわけだが今回は違う。
作らなきゃいけないと思い弁当箱も食器と共に準備はしておいた。
マグカップ同様にタチバナさんの分も。