第5章 したかったこと side M
「もうそろそろ夕食の準備しますか?」
鼻歌まじりで新しいマグカップを眺めるタチバナさんに提案する。
彼女はこくりと頷き、続きを歌っていた。
準備を始めるとタチバナさんはキッチンにやってきた。
手伝ってくれるのか、そう思った俺の間違いでした。
「こういうの、キッチンドリンカーっていうんだっけ?」
全然違うと思いますけど、依存具合はそうかも知れませんね。
タチバナさんはビール片手に俺が料理するところ隣でをじっと見ている。
彼女が言うにはキッチンで飲んでるからキッチンドリンカーらしい。
違いますけど、そう言ったところで面白い話も出来ないのでそういうことにしておいた。
「包丁、上手いね」
「そりゃ、どうも」
学生時代、飲食店でバイトしていたことがあった。元々キッチン志望で入っていたのにいつのまにかホールと両方やらされるとても利用されやすいバイトになってしまったのが懐かしい。
料理は結構好きだ。一人で居るときも早く帰れる日があれば結構作っていた。
自宅には料理の本も沢山あって友達に馬鹿にされたものだった。
だからあまり女性の手料理には惹かれない。
男ってこういうの好きでしょ、っていうのが伝わると食欲無くすくらい。
だから、正直タチバナさんに料理を任せてもらえたのは嬉しかった。
もしタチバナさんが私料理好きなのとか言って肉料理ばかり出してきたら2年間、それから逃げ外食生活するところだった。