第5章 したかったこと side M
「俺だってスノークのお嬢さんがいいです!」
「あれ?これって、フローレンじゃないの?」
「スノークのお嬢さんです」
「そんなこと知らない、どうでもいい。でもこれが私の!」
タチバナさんはそんなにスノークのお嬢さんが好きとは知らなかった。
「強行突破」
タチバナさんはキッチンの片隅においてあった油性マジックを取り出した。
何をするか見ていれば、あろうことか、ミイのマグカップに俺の名前を書いていた。
コーキ
名前、覚えてくれてるんだ。その上自慢げな顔をしている。
俺、顔熱い。絶対、赤くなってると思う。なんかすごく嬉しくて。
苗字で呼ばれてるのに名前も知ってくれてるのが嬉しくて。
マグカップのことなんかどうでもよくなった。
俺の名前の書かれたミイのカップと何も書かれてないスノークのお嬢さんのカップ。
二つが綺麗に並べられてた。そのマグカップの横にはコーヒーミルとドリッパー、ドリップポット。
朝食は食べないでいたけれど、珈琲を飲むのは日課だ。
タチバナさんはもの珍しそうに眺めている。
「インスタントじゃ駄目なの?」
全然違うことを説明しても、色が付いてれば一緒。そう言ってた。
まあ、そういう人も居ると聞いてたけどまさかこんな近くにそんな人がいるとは思わなかった。
「飲み物は、アルコールが入ってるか、入ってないかの2択!」
そう言い切るタチバナさんに少し呆れながらも興味を惹かれる。