第5章 したかったこと side M
家に帰るとタチバナさんはソッコーで煙草に火をつけた。
一方、俺は買ったばかりの食材を各所にしまう。
空だった野菜室が埋まって、キッチンにも調味料が並び賑やかになった。
何故か置きっぱなしにされていたキッチンカウンターにあるハサミ。
しまう場所を確認しようとしたが今日買った大きな袋が目に付いた。
革鞄はご丁寧にも袋の中にまた、大きな紙で包装されていた。
まあ、結構な値段がしたものだから当然と言えば当然。
此処最近のエコブームとやらはどうしたんだ、と思ったところで俺は何年か時を遡っていたんだったと思い出した。
どうもまだしっくりこない部分もある。
タチバナさんの分の鞄だけすぐにでも使える状態にし、俺はソファに座った彼女の隣に座る。
リフレクターが入った小さな袋を取り出すとタチバナさんがこちらを気にしていた。
袋を開けてローテーブルにそれらを並べる。黒と、赤の小さな猫のリフレクター。
「これ、鞄買ったときにあったやつ?」
「そうですよ、鞄につけてもらおうと思って」
「子供じゃないんだから」
タチバナさんは笑ってた。
充分子供ですよ、今の俺達は。
「で、どっちがいいですか?」
「...じゃあ、赤」
俺が思ったとおり、彼女は赤がいいと答えた。
やっぱり、黒が好きなわけじゃないんだ。
それを黒と赤、両方鞄につけてやったら、タチバナさんは少し怒って俺の使う予定の鞄に黒いリフレクターをつけてきた。
きっと、自分だけ付けてるのは恥ずかしいとか、思ってる。
それは分かってるんだけど、なんかすごく可愛く思えてきてワザと意地悪いことを言う。
「何?これまでお揃いにしたかったの? かわいいねータチバナさん」
「ウルサイ」
頭を撫でると子供みたいに笑った。
今は子供なんだけど、なんか、子供みたいってこういう顔のこというのかな。
すごく、守ってあげたいと、思う顔。