第5章 したかったこと side M
タチバナさんは半分ほど吸った煙草を灰皿に押し付けた。俺は急いで珈琲を飲み干しす。
「じゃ、とりあえず鞄見に行こうか。お会計宜しく」
「まあ、俺のお金じゃないですけど?」
「ふたりのだからね」
何となく、ふたりの、っていう言葉にどきりとした。
「ご馳走様でした」
「いや、だから俺のお金じゃないですよ」
「でもいいの。ご馳走様でした」
「じゃあ、俺もご馳走様でした、です」
「なにそれ」
「...ん? いいじゃないですか」
お店を出ると大きなガラスに俺とタチバナさんが映っていた。
自分の理想の身長差。
口には出さないがこれがやりたくて彼女の靴を選んだ。
高校時代、結構背は伸びていった。
隣にいるタチバナさんの様子を見ると彼女はそこまで背は伸びないだろう。
2年間、隣に並んでくれるなら、俺はこの身長差を続けたいと思う。
高いヒールが苦手そうな彼女に「もっと高いのも履いてくださいね」と我侭を言ったら笑ってた。
これからの2年間だけでいいから。あなたは俺の隣に並んで、歩いてくれますか?