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Re:思い出

第5章 したかったこと  side M


少し大きめの灰皿が綺麗に洗われてローテーブルに置かれていたので食器を洗ってから煙草を一本だけ吸った。
その後、顔を洗い髪を整えて歯を磨いていると両手に抱えきれないほどの服の山を寝室からリビングに運ぶタチバナさんが見えた。
俺はそんな彼女を横目で見ながら自室に戻り壁にかけられた制服に手を伸ばした。
下のパンツはまあスーツに似ていなくもないので抵抗なく穿ける。カッターシャツを羽織り皺になったスラックスから馴染みきったいつものベルトを引き抜きそのパンツに通す。

使い慣れた穴より内側の穴に固定された。
少し落胆。仕方がないのだけれど、こんな些細なことでこの状況を再確認する。

何だか腕が寂しいと思ったところでいつもの行動に足りない事を思い出した。

寝室のエンドテーブルの上に置いた腕時計。いつ外したかは覚えてないけれど、そこにあるのは今朝気付いた。
それを腕に巻く。腕を降ると小さく時計が巻かれる音。成人した歳に父親から譲り受けた自動巻きの腕時計だ。

父親が使っていたものに憧れ、二十歳になる歳に譲って貰うことを約束していた。
メンテナンス次第ではあるが半永久的に使えると聞く。この重さが心地いい。
丁度、今頃の年齢の頃の自分が父親に頼んでいたのを思い出した。

『一生大事にするから』
そんなことを言った気がする。10数年しか生きてない高校生なんかの一生なんて、そりゃあ随分と軽い言葉だ。
それに首を縦に振った親父は、俺を信頼しすぎだろう。
今になってそう思う。でも、この時計を見るとその信頼が形になって此処にある、そんな気がするんだ。
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