第5章 したかったこと side M
目を覚ますと隣にはポカンと空いた空間があり、少し遠くから食器を洗う音がした。
枕元にあるスマートフォンを手探りで探すもそこにあったのはガラパゴスケータイ。
ああ、そっか。自分の今ある状況を思い出す。そこに表示された無機質な時計は7:30を差していた。
慣れない場所で寝ると目覚めが悪い。俺はその覚めない頭のまま家主が居るであろうリビングダイニングに向かった。
「おはようございます」
小さなタチバナさんはキッチンに立っていた。朝の挨拶を軽くしてまだ覚めない目を擦る。
彼女は俺に洗ったばかりの皿を差し出した。
「おはよ。冷蔵庫にシリアルと牛乳が入っているから」
どうやらそれを食べろと言うことらしい。
社会人になってから朝は食べないのが普通だったが、今の高校生に戻った身体は生活リズムがしっかりしているらしい。先ほども空腹で目覚めたようなものだった。
言われた通りこの白い皿にシリアルを流し込み牛乳をかけているとタチバナさんは寝室へ消えていった。
装飾のないシンプルな食器。
昨日は気づかなかったが家具も地味な色でシンプルなものばかり。
今腰掛けているソファも目の前のローテーブルも何とかというデザイナーズのもの。
テレビのトーク番組のスタジオなんかでもよく使われているものと同じデザイン。
シンプル極まりない。
女性の部屋というよりハウススタジオ。もしくはマンションのモデルルーム。
いや其よりもシンプルだった。
何もなく、物への執着が欠如しているから異常な性癖が生まれたのではないだろうか。
まあ時間はたっぷりある。
そのうち分かるだろと曖昧な結論に達したところで俺の朝食は終わった。