第1章 ここから始まった
「オーナー。火ィない?」
「アズサちゃんにあげる火はないね」
オーナーはにやりと笑う。私はこの顔を知っている。
「折角研究結果聞けると思ったのに聞けないんだもん」
『アズサちゃんにあげる火はないね』
それは、アズサちゃんのターゲット、次の客ね。
そう言う事だ。彼の差し金で数人と関係を持ったことがある。
私の常套手段。
その名も『ライター忘れちゃったんで、貸してくれませんか?』
名前のとおり全く知らない人に話しかける一番いい言葉だ。
「それ。ぜってー私の理想来るわけないじゃん!」
「だってさ。それ、犯罪でしょ?
僕だってね、犯罪には加担したくないわけよ」
先ほどと同じカクテルが目の前に置かれる。
それを飲みながら、私は言い訳をはじめた。
「私さ。恋愛のれの字もない高校生活してたのよ」
オーナーはバーカウンターにある私の煙草を一本抜き取ってそれを咥えた。
もう、いい。私は今語るモードなわけですから。
「高校ってすぐ其処の高校でしょ。結構遊んでる子多いのに意外」
紫煙を揺らせて煙草の先の窓の向こうを見る。
そう、高校時代は何もない平凡な毎日を過ごしていた。
文武両道なんて目標を掲げる学校ではあったものの中の中。
文ができるわけでも出来ないわけでもない。
だからと言って武が出来るわけでも出来ないわけでもない。
とても中途半端な学校だった。
生活は特に変わったこともなく遅刻するかしないかギリギリに登校。
ぼーっと授業を聞いて友達とそれなりに話して、部活も入ってなかったものだから授業が終わればそのまま帰る。
たまに本屋によって本を買うくらい。
遊ぶこともなかったし、かといって勉強もしなかった。前述どおり運動もしない。
少し変わったことといえば進学クラスに属していてそれの理数系とやらを選択したのでクラスの大半が男だった。
といってもやつらは私達女をいないものとして扱い(いや、扱ってすらいない)
私達は居ないものとして教室の隅にいた。
漫画やなんかではちやほやされるもののそれはただの空想であって現実とはこういうものだ。
そんなこんなで何もないまま気がつけば三年というのはあっという間だった。