第1章 ここから始まった
興味本位の研究。
オーナーがそう表現したものは言葉とは程遠い薄っぺらい、単純なことだ。
目の前に男がいるとしよう。
公の場では優しいかもしれない、厳しいかもしれない。真面目かもしれない、
不真面目かもしれない。大人しいかもしれない、ウルサイかもしれない。
子供っぽいのもいるだろうし大人っぽいのもいるだろう。
それが私と2人きりになったとき、どう変化するんだろう。
肌を重ねたとき、どうなるんだろう。また、その後はどんな態度を取るだろうか。
それが私にとって非常に興味深いことなのである。
「で、最近の研究結果の発表はないの?」
「残念ながら、興味そそる相手がなかなか現れなくてね」
求める話とは裏腹に爽やかな笑顔でオーナーは私の顔を覗き込んだ。
仕事が立て込んでたのもある。ここ1ヶ月近くはずっと午前様だった。
「残念だね。でも、理想あるでしょ。次の対象」
次か。飲み干したカクテルグラスから氷を取り出し口に放り込む。
そして口の中で氷をぐしゃっと噛み砕いた。
「年下がいい。うんと年下。
あと、これ、同じの頂戴。」
甘酸っぱいそれが、きっと私の幼い頃の出来事を思い出させた。
思い出に耽るのもいいが、私はもう立派な大人だ。
そう、大人なのだから、甘酸っぱいままでは生きられない。
私はこの口の中に残ったものを汚したくなった。
ポケットから煙草を取り出す。
が、いつもその中に入っているライターがない。