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Re:思い出

第4章 したかったこと


タグを切り終えるとソファの隅にそれを立て掛け、クロサワは自室(元私の書斎である)に行き煙草の箱を持って戻ってきた。ソファを少し詰める様に首で促し、私の隣に座る。煙草の先端を彼に向けると彼は、どうも、そう言って自身の煙草に火を渡らせる。少し下を見る彼の表情は艶っぽい感じで結構好き。

「これどっちがいい?」
彼が小さな紙袋から取り出して、ローテーブルの上に置いたのは反射板のついた変な猫型のキーホルダーだった。黒と赤。見覚えのあるそれは鞄を買ったときレジの横にあったものだった。

「子供じゃないんだからこれはないでしょ」
「タチバナさん、ふらふら歩くから危なっかしいので鞄にこれ付けなさい。これなら夜遅くに外歩いてても少しは大丈夫です」
それはクロサワ君ではなくてクロサワからの言葉だった。
真っ直ぐな大人の目に少し怖くなった。

「じゃあ、赤にする」
「やっぱ黒が好きとか適当なこと言ってたんだ。まあ両方つけるけど」
クロサワは銜え煙草で先ほどタグを取った学生鞄にキーホルダーを付けた。
黒と赤の猫。何だかその鞄がすごく子供っぽく思えた。
いや、本来の自分なら可愛らしいと思うところだがつい高校生の気分になってたのだろう。
すごく恥ずかしい気がして 黒い方のキーホルダーをもう一個の白い紙に包まれてタグがつきっぱなしの鞄に付け替えた。

「クロサワも危ないからこれ付けなさい」
「何?これまでお揃いにしたかったの?かわいいねータチバナさん」
たまに敬語じゃなくなるとことか何考えてるか分かんないけど 私の頭を撫でるその手は少し安心する。学生鞄を抱いて、その猫の反射板に室内の蛍光灯の光を当ててキラキラしているのをしばらく見ていた。その間、クロサワは私の頭をクシャクシャと撫でて笑っていた。
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