第4章 したかったこと
適当に通学鞄を探す。正直何でもいいと思ってたが選ぶとなると結構迷うものだ。
色は暗めがいい。前の学生時代は新しいものを買ってはみたものの結局中学時代に慣れ親しんだ鞄を押し入れから引きずり出して中高と計6年間それを使ったことを思い出した。
「タチバナさん、あ、違った。先輩、決まりました?」
クロサワはどうやら意識して先輩と呼んでたようだ。
「決まんない」
「じゃあこれどうです? 学生って感じじゃないですか?」
乱暴に答えるとクロサワは表に錠前のついた本革の学生鞄を持っていた。確か、抱え鞄って言うんだっけ?
クロサワが言うように学生って感じなのだが、確か周りにはこういう鞄を使う人は居なかった。もっとラフな感じの、ボストンバックのような形のものや部活やってる子なんかはショルダーバッグを持ち歩く子が多かった気がする。私もボストンバッグ型のスクールバッグだった。結構物が入るので色々詰め込めて便利だった。
「決まらないならこれ2つ買ってきます」
私の返事を聞かないままそれをもって店員に向かった彼の後ろをついてレジに向かう。
レジカウンターの隅に小さなヌイグルミ型のキーホルダーや子供がランドセルにつけるだろう反射版のついたキーホルダーが並んでいた。
「先輩は何色好きですか?」
急な問いかけに私は目についた黒。好きでもないし嫌いでもない黒という答えを出した。
クロサワがごちゃごちゃしてる間私はレジの向こう側にある小さなボストンバッグが気になっていた。それの色が黒だったので、そのままその色を答えただけ。
会計をしているクロサワと離れてそれを手に取ってみる。かわいい。
いろいろな角度から眺めていると少し上のほうから手が伸びてきてそれを奪い取っていった。
「そんなんじゃノート入んないですよ」
ボストンバッグを取り上げて元の場所に戻したのはクロサワ。名残惜しくその鞄を見る私の手を彼は強引に引っ張って歩き出した。