第3章 思わぬ出来事 side M
一番大事にしなくてはいけないお金の確認を最後にしたところで外を見ると既に夕方のようだった。
洗濯物を取り入れ、一仕事終えた様子でぷかぷかと煙草を吸うタチバナさんに早速例の呼び名を使う。
「先輩、お腹すきました」
当たり前かのように、そうなのか。と受け流され少し寂しかった。
俺はタチバナアズサを先輩と呼ぶことに結構抵抗があるのに対し彼女はそうではないようだった。
此処の家の冷蔵庫は昨日見た。
ビール、チュウハイからウイスキー、ワイン、日本酒、冷蔵庫に入れるものだけではなく入れなくていいもの、入れないほうがいいものまで様々なアルコールが並んでいた。
その横に申し訳なさそうに小さなヨーグルトとフルーツグラノーラ、牛乳。
冷凍庫にはハーゲンダッツのスプーンだけが落ちていた。
ここは本当に人が住んでいるのかと疑問に思う冷蔵庫だった。
その冷蔵庫の持ち主が料理当番をサボるのかと言うものだから驚きだ。これで何を作れと言うのだろう。
キッチンに居るのでくるっと見渡せばもうひとつ重大なことに気が付いた。
この家、調理器具がない。
あるのは綺麗なガスコンロ。
注意書きのステッカーも綺麗なまま、掃除好きだとしてもここまではいかない。
使った痕跡がないのだ。
料理しないにしても鍋のひとつくらいあってもよさそうなもの。
それがないにしても電子レンジくらいは…そう思うが見当たらない。
なんという家なのだろう。
此処まで徹底していると清々しい。
だが料理当番になった以上最低限の調理器具と食器だけは揃えさせて頂こう。
そう考えてた矢先、彼女は自分の欲求を口にする。
「私、ピザ食べたい」
マイペースというのか。我が道を行くというのか。