第2章 思わぬ出来事
「先輩。お腹空きました」
何も食べないまま話していて気づけば夕方になっていたようだ。
早速料理当番をサボるつもりなのかクロサワは私にそんなことを言ってのけた。
それを正直に伝えると
「ここの冷蔵庫、酒とツマミ以外ないんです」
呆れ顔のクロサワの顔はもう見飽きた。
それはその通りだ。
私は料理をしないからな。
だが、ヨーグルトとシリアルと牛乳ならある。まあ、晩御飯ではないな。
もともと仕事あがりが遅いせいもあってあまり晩御飯を食べると言う習慣がなかった。
今もクロサワが空腹の旨を伝えなければ明日の朝までそれを感じることはなかっただろう。
だが今此処に居るのは育ち盛りの高校生である。
そしてより重大なことにクロサワが気付く。
「ここ調理器具一切ないんですね」
ばれたら仕方ない。
うちには包丁、フライパンをはじめとする調理器具が一切ない。
あるのは先ほどオーナーに取り上げられた電気ケトルのみ。
よってキッチンにあるのは食器だけ。
ワイングラスが赤用、白用、スパークリング用各2脚。カクテルグラス、ロックグラス各2つ。マグカップ4つ。そしてシリアル用のボール皿1枚とスプーン1本 それだけだ。
「見事に偏りのある生活感のないアル中の家ですね」
渇いた笑いが笑えないよクロサワ君。
オーナーがおいていった現金の入った袋の中身を確認し、ピザを頼むことにした。
旧壱万円札が数枚。だから置いていったのか。私の財布にあるお金は多分、使えないのであろう。