第6章 過去が今に変わる
「佐伯くん。チョーク広がってるよ?」
「あー仕方ないよね、こういうの。っていうか名前知ってたんだ」
「クラスメイトでしょ、一応。黒板に書いてあるし」
「まあそうだけどさ」
名前紳士は自分の席、つまりは私の隣の席に座り机から日誌を取り出した。
一方私は転居届けを書く作業を再開する。
先ほど一言二言会話をしたきり、また静かになって遠くから運動部員の掛け声が聞こえた。
隣の教室にも、廊下にも誰も居ない様子。そのほかに聞こえるものと言えばペンを走らせる音くらいだった。
「日誌って書くことないよね」
彼は無言に耐えかねたのか、突然話しかけてきた。
「そんなの、[特記事項なし]でいいのに」
「なにそれ。タチバナさん、変わってるね」
「そんな事ないと思うけど? 悩むほうが変わってるよ」
「あとさ、タチバナさんって全然話してくれないよね。1年から同じクラスなのに今日初めて話したよ」
まあね、そうかもね。
同窓会でも何人かの男の子にいつも黙っててたまにすごく笑うから話したことなかったけど笑いのツボは知ってるって言われたんだっけ。
「君と話すと他のクラスの女の子から質問攻めに会うから」
廊下に誰もいないことを確認してから答えた。下手したらいじめに合う勢いだと加える。
「なにそれ。聞いた事ないよ」
「嘘。佐伯くん、人気あるんだよ? ホントは気付いてるでしょ?」
「はは...気付いてるって。タチバナさん、面白いね」
名前紳士は笑って誤魔化してはいたが多分少しは自覚ある様子だった。