第6章 過去が今に変わる
転居届け書き終わって立ち上がると、彼はまだ空欄の備考を埋めるため頭を抱えていた。
「ちょっと、貸して」
彼の机の上にあった日誌を取り上げて[特記事項なし]と書いた。
これは、英語のノートを貸してくれたお礼のつもりだ。そこには他の時間割りやなんかに書かれた彼の字とは違う私の字。
「タチバナさんは読みやすい字を書くよね」
「そう?」
ふと見下ろすと、座った彼の背中に広がるチョークの粉が気になった。
払うように叩いたら彼は痛いと笑った。
あれ、こんな簡単に打ち解けられるのに何故あんな距離のまま3年間も過ごしたんだろう。
「痛いって。タチバナさん」
「だって取れないから」
「取ってくれようとするのありがたいけど、痛いからいいって」
「遠慮しなくていいからさ」
当時考えていたよりも簡単に会話って出来るものだったんだ。
そう思いながら彼と話していると、大きくドアが開く音がした。
クロサワだった。