第10章 広がる出会い
「うちの史哉が悪いことしたね。また秀達とおいで、ご馳走するよ」
「そ、そんな・・・!」
「いいからいいから。秀にも俺から言っとくよ」
グッと親指を立てて私に約束をする店長。続いて薫が私に何かを差し出した。
「はい、コレ」
「え・・・?」
「これから雨降るみたいだし、丁度いいかなって」
麻乃に怪しまれないようにと手渡された“忘れ物”としての折り畳み傘。ロッカーに常備しているのだという薫の折り畳み傘は、上品な赤い色。
「で、でもコレ・・・薫さんが困るんじゃ・・・」
「ちゃんと傘持って来てるから大丈夫!コレはいざという時の為の予備だから安心して」
「薫さん・・・本当にありがとうございます」
「この位どうってことないって!今度秀達と来た時にでも返してくれれば大丈夫だからね」
何て優しい人なのだろう。
初対面の私に何から何まで世話を焼いてくれる彼女は、もはや・・・
「・・・神様」
「・・・何、急に。戻ってきて早々どうしたのさ」
「あ、いや、何でもない」
店長と薫にお礼を告げて麻乃の元へ戻った私は、薫の優しさに胸を打たれ、つい言葉が漏れてしまった。
「それにしても遅かったね?混んでた?」
「あー・・・うん。あと、ついでに“忘れ物”も受け取ってきた」
「なるほど、だから遅かったのね」
何とか疑われることなく済んだ。これもまた薫のおかげ。
会計時に周りを見渡すが、見知らぬ店員ばかり。休憩中、はたまた気を利かせてくれたのか・・・どちらにせよ麻乃の前で下手な演技をせずに済み、少しホッとした。
「え、雨降ってる!どうしよ、傘持って来てないよ〜・・・」
「・・・私持ってる」
「うそ、ラッキー!さすがともみ、ぬかりない!」
薫さんのだけど・・・という言葉は飲み込んで、私は心の中で謝って傘をさした。本当、何から何まで助けて貰ってるな、なんてしみじみ。
その後、予定通り麻乃の家へ向かい、楽しくお泊りを終えた。