第10章 広がる出会い
微かに聞こえる声からして、明らかに薫に怒られている史哉。そんな薫のお陰で、その後麻乃から詮索されることもなかった。
「そろそろ出よっか」
時間を確認した麻乃がそう口にした。そろそろ陽が傾き始める頃だろうか。
「その前にちょっとお手洗い行ってくるね」
我ながら自然だった思う。トイレに行くと見せかけ、キョロキョロと薫を探す。
(ちゃんとお礼、言わなきゃね)
だけど、薫どころか史哉さえ見当たらない。あまり遅いと麻乃に怪しまれそうだし・・・と内心焦っていると、
「お客様、どうかなさいましたか?」
驚いてビクッと反応し、恐る恐る後ろを振り向くと、ガタイのいい顎髭の店員さんが私を見下ろしていた。
「あ・・・え、えっと・・・人を・・・」
「お連れ様をお探しで?」
「い、いえ・・・あの・・・」
史哉達の名前を出していいものか・・・何より、悪いことをして見つかった時のような感覚で、上手く言葉が出てこない。
「あれ、ともちゃん?」
私達の声が聞こえたのか、スタッフルームから出て来た薫。ホッとする私に、どうしたの?と駆け寄ってくれた。
「あの・・・さっきのお礼がまだ言えてなかったので・・・」
「え、そんなのいいのに!その為にわざわざ来てくれたの?」
「も、勿論です!本当に助かりました、ありがとうございました!」
「いえいえ。っていうか、あのバカのせいだよね、本当ごめんね」
休憩中だという史哉を思い浮かべ、2人して苦笑い。
「でも、どうして助けてくれたんですか?」
「だって、思いきり困り顔だったよ、ともちゃん。それに史哉がニヤニヤしてたから、もしかしてあの子かもって思ってね」
「あの子・・・?」
「あー!この子か、史哉が言ってた子って!」
私が首を傾げると同時に、隣から降って来た大きめな店長の声。
「秀が連れて来た子だろ?」
「は、はい・・・」
「店長、声大きい!」
麻乃に聞かれたら困ることに気づいている薫が注意するも、ごめんごめん、と軽く笑い飛ばす店長。
そんな店長は、強面な外見では想像出来ない程優しい笑顔で私を見下ろす。