第8章 まさかの展開
2人きりで話すのは、多分あのすれ違いの日以来。
「・・・ありがとね」
「・・・何、急に」
「だって、功平くんのお陰で合格出来たもん」
「それは違うだろ」
「違わないよ。ずっと練習に付き合ってくれて、色々教えてくれたのは功平くんだよ。だから、ありがとう」
合格したって分かった瞬間、1番に思い出したのは沢山練習に付き合って貰った功平のことだった。
「・・・・・・」
「功平くん?」
「いい、こっち見なくていいから」
「何で、」
「いいから」
私とは反対の方に向けている彼の顔を覗こうとするが、彼はそんな私の肩を押さえてそれを許さない。
「・・・まー、」
そんな状態のまま、彼が呟くように
「・・・おめでとう」
と、辛うじて少し見える方の目で私を見た。
「うん、ありがとう。功平くんもおめでとう」
「・・・ん」
「でも・・・」
ふぅ、と肩と一緒に溜息を吐いた功平の隣で、つい言葉が出てしまった。
「でも、何?」
「う、ううん、何でも・・・」
「んだよ、気になるじゃん」
そんな話の頃にはもう駅は目の前だった。話を逸らして帰ってしまいたかったが、功平は私の言葉をじっと待っているようだった。これじゃ言わざるを得ない。
「・・・大したことじゃないよ?」
「うん、いいよ」
「んー・・・えっと、ね・・・・・・本当は功平くんに、」
「うん?」
「・・・1番に言って貰いたかったなーって。・・・あの、それだけ、なんだけど・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・あの、?」
「・・・っとに、お前は・・・」
「・・・あ、」
目線を上げれば、お決まりのように顔を赤らめている功平。目を細めて睨んでいるようにも見えるが、今は全然怖いとは感じない。
「・・・アホか」
「んなっ・・・!功平くんが言えって言ったんでしょ!」
「はあ~・・・もうどうしていいのか分かんないんだけど・・・」
「何が?」
「・・・別に、何も」
「何それ、気になる!」
「教えない。・・・帰るの遅くなるから早く行けって」
「もう!自分ばっかりズルい!」
「はいはい。ほら、またな」
「・・・ばいばい」
押しの弱い私に勿論勝ち目はなく、言われるがまま手を振る彼の姿を横目に改札を抜けた。