第6章 縮む距離感
「じゃ、始めよっか」
「・・・始める?・・・何を?」
「そりゃ決まってるでしょ、」
そして不敵に笑う彼に、私はまんまと捕らわれる。
「面接練習」
あぁ、絶対この人スパルタだな。そう思った。
受験に関する書類を全部出せと言われ、今持ってるだけの資料等を全て彼に差し出す。まるで先生のように真剣な顔つきで一つ一つに目を通す様は、身に纏っている名門校の制服を更に際立たせている。
「うん、文章力はある」
褒められたことに少し浮かれそうになったが、自分の中の不安要素が渦巻いて素直に喜ぶことが出来ない。
「でも・・・ちゃんと言えるか不安なんだよね」
「だから練習するんだろ。こういうのは慣れと勢い。要するに、回数重ねて慣れればいいんだよ」
「・・・勢いは?」
「それは本番で。全てが練習通りな訳じゃないからな」
これはあくまで持論だけど。そう彼は言ったけど、まるでそんなマニュアルが存在するような説得力で、私は素直に聞き入れた。
「じゃあ、いつもの練習通りやってみて」
「え、いきなり!?ここで!?」
「小声でいいから。周りのことはそんなに気にしなくていいんだよ、お前が思ってる程気にしてない」
「でも・・・」
「お前は普段から気にし過ぎ。だから人一倍人見知りしたりあがったりするんだよ」
私のコンプレックスにガンガン突っ込んでくる彼。当たってるだけにダメージもあるけれど、解決策を教えてくれてる彼の優しさにはすぐに気づいた。
「目泳いでる」
「ご、ごめん・・・」
「肩上がってる」
「うっ・・・」
「顔が強張ってる」
「・・・すみません、」
2時間程みっちりと練習に付き合って貰い、私は大いに絞られた。良い所を褒めて貰える時は嬉しいが、それは約2割。残りの8割はほぼ指摘されていた。でもそのおかげで
「・・・いいじゃん」
最終的には色んな質問にもスラスラ答えられるようになり、彼からのアドバイスを生かすことでスムーズに進んだ。そして、お疲れ様、と再度買ってきてくれたケーキがご褒美だった。飴と鞭。まさにこの言葉そのもの。おかげでやる気はグングン倍増する。
この効果なのか、彼のスパルタを分かっておきながらも、明日も練習に付き合ってもらうことを約束したのだった。