第2章 冷え始める季節
お腹休めに暫くゆっくりしていると、陽太がウトウトし始めた。
「寝るか?」
「んー・・・」
「寝るなら帰るぞ」
「・・・やだ」
お兄さんの言葉にやっとの思いで返事をしつつ、やっぱり眠さには勝てないようでコクコクと頭が揺れている。やはり連れて帰ろうと陽太を抱き上げようとしても、頑なにその場から動こうとはしない陽太に、お兄さんはなかなか手こずっているようだった。
「陽太、ここで寝ると風邪ひいちゃうよ?」
「ん・・・」
私が声をかけたところで状況が変わることはなく、陽太は眠い目を開けては閉じを繰り返している。恐らく陽太もなかなかの頑固者。
このままでは風邪を引いてしまうと思い、マフラーを鞄から取り出して陽太を覆うように掛けた。そんなに長い訳ではない私のマフラーも、幼い陽太は何とか覆うことが出来た。
「・・・本当すみません」
「いえいえ(笑)」
ため息を吐きながら頭を下げたお兄さんの目線の先は、私の膝で身体を丸めて寝入った陽太の姿。まだ幼い陽太に手こずり、結局どうしようもなくなってしまったお兄さんの、どうしようもない表情が少しおかしくて笑ってしまった。何気なく陽太の頭を撫でれば、柔らかい髪の毛が私の掌をサラサラと擽った。
「結構冷えるな・・・。スカート寒いですよね、すぐ連れて帰るんで」
「あ、私は全然大丈夫です!でも、陽太が風邪ひいちゃいそうで・・・」
寝てはいるものの、寒いのかモジモジと動く陽太。少しでも暖かくなれば、と羽織っていたブレザーを脱ごうとすると、それよりも先に、私より大きめのブレザーが陽太にかけられた。それは言うまでもなくお兄さんのもので、蹲る陽太はすっぽりと収まっている。
「さすがに、そこまでしてもらう訳にはいかないです」
「す、すみません・・・」
まだ会って間もないというのにおこがましかっただろうかと思い頭を下げると、何故か返ってきたのは言葉ではなく笑い声で。・・・しかもそれは
「くっ・・・ふははっ!」
という、何とも堂々とした豪快な笑い声で。
(な、何!?何なの・・・!?)
気まずくて仕方ない私に相反して笑っている彼が、私には理解できずひたすら戸惑うばかり。どこに笑う要素があったのか。てかこの人はこんな風に笑うのか。・・・ていうかこの人、失礼じゃない?なんてことを一瞬の内に思った。
