第2章 冷え始める季節
「あるならあるって言ってくれれば良かったのに、なぁ」
「うん!ぼく、たまごのおにぎりだいすきだよ!」
公園の川辺のベンチでおにぎりを頬張る陽太とお兄さん。実はこれ、私が用意してきたもの。作ろうかどうしようか物凄く悩んだけど、この間の陽太の美味しそうに食べている顔がもう一度見たくて、つい作ってしまった。今回はお兄さんもいることは分かっていたので、とりあえず卵のふりかけ以外に鮭とこんぶのおにぎりも用意してみた。
「で、でも、おにぎりだけで、おかずは用意してなかったので・・・」
結局コンビニで軽いおかずは買った。お弁当にするかおにぎりにするかで陽太とお兄さんが話し始めた時、恥ずかしいながらもおにぎりを作ってきたことを打ち明けた。そして今に至る。
「ぼく、おにぎりだけでいいもん」
そう言って、美味しい美味しいと、この間と同じ卵のふりかけのおにぎりを食べる陽太。そしてお兄さんも3つ目のおにぎりを食べ終えると、ご馳走様でした。と私に手を合わせた。
「・・・お口に合いました?」
「この通りです」
私に掌を見せるお兄さん。おにぎりを包んでいたラップだけが握られていて、食べ終わったことを主張する。間に座っている陽太も、先程食べ終わった1つ目のおにぎりのラップを真似して私に見せる。
「よかった〜・・・」
「そんなに心配だったんですか?」
「・・・だって、嫌じゃないかなーって」
「え?」
「まだ会ったばかりだし、知らない人が作ったおにぎりなんて、食べてもらえるかどうか分からないじゃないですか」
そう、この間既に食べた陽太はまだしも、お兄さんは今回が初めて。会話もロクにしてないのに、そんな人が作ったおにぎりを食べてもらえる保証なんてどこにもない。寧ろ、食べてもらえない、食べたくないと思われてもおかしくない。
「あー・・・」
「・・・・・・」
「全然気にもしてなかったな、俺」
彼は天を仰いで呟くようにそう口にした。それがどういう意味なのかは分からないけど、食べてもらえたのだから良いことにしよう。そのことは素直に嬉しかったから。
「ごちそーさま!」
「陽太も全部食べてくれたの?ありがとう!」
「だっておいしかったもんねー!」
また食べたい!と、私に笑いかけてくれる陽太の笑顔が何より嬉しくて、私の心は幸せでいっぱいになった。
