第2章 新しい空気
いつも通りの生活だけど空気だけがガラッと変わったように思えた。
彼のことを少しでも思い出すだけで、わくわくした気持ちになる。
もともと仕事が嫌いなわけではなかった。だけどパティシエール目指し働き始めて2年目、まだまだ下働きばかりなことが正直つまらないと思うこともあった。でも今はどんな小さなことだって大事なことだって思える。一日一日を大事にできる。
やっぱり彼は天使なんだ。
ショーケースのガラスにうつる自分に思わず微笑みかける。
ある日の午後、レオンがめずらしく一人で店に来た。
「お一人ですか?」
「うん! ミシェルはちょっと遠くに出張に行ってる」
「そうなんですか。じゃあしばらくこちらにはいらっしゃらないのかな……」
がっかりして私が言う。
「いや、まあ。2、3日ぐらいじゃない?」
その答えに思わず笑顔になると、レオンは何かに気づいたような顔をした。
「あ、マリィちゃん……。ミシェルのこと……! ダメだよっ、だめだめ……。絶対にダメッ! 確かにミシェルはよく見たらちょっとかわいい顔をしているかもしれないけど……、性格がすごーく悪いから!」
「え? あ、いや、あの、えーと。……そうなんですか」
否定するべきかどうかわからなくなって訳のわからない返事をしてしまう。ていうか、よく見なくてもかなりかっこいいと思うけど。
「それにあいつは相当変わってるからっ。俺みたいな普通の男のほうがいいって。せっかくミシェルがいないからよけいなこと言うやついないと思って来たのになぁ」
レオンが普通の男、かどうかは判断つきかねるけど……。
レオンはまたいつもの調子で今度食事に行こうなどと誘ってきた。具体的な日時も提案されたが丁重に断っておいた。