第13章 記憶の扉(後編)
僕は自分の部屋で目を覚ました。
僕は夢の中のことを全部覚えていた。
彼女のあたたかい身体の感触はまだ腕の中にあるようだった。
だけどここはもうマリィのいない世界なのだ。
僕の目から涙がこぼれた。
夢の中のことはとてもリアルだったけど、しょせん僕の頭の中で都合よく作られたものだ。
僕は泣き続けた。
自分の腕をぎゅっと握った。
そして気が付いた。
僕の左手の薬指には赤い石のついた指輪がはめられていた。
朝、僕はリビングに出た。レオンは新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。レオンは僕の顔をちらっと見た。
「早起きだな」
そう言ってすぐに新聞に目を落とす。
「レオン。昨日、ごめん……。僕……」
「ん? なんのこと?」
レオンは新聞のほうを見たままそう言った。
「ありがとう」
僕がそう言うと、レオンはにっこりと微笑んだ。
「あ、もう出なきゃ。約束があるんだ。コーヒーあまったから飲んでいいぞ」
そう言いながらレオンは出かけていった。
僕は一人でコーヒーを飲んだ。ときどき左手をひろげて薬指の指輪を眺めた。
地球を守って、と彼女は言った。
大好きだった地球、大好きな彼女が生まれ育った地球。
僕は地球を守るために、今日は少しだけ仕事をしよう。
end.