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冬の夕空

第12章 記憶の扉(前編)


僕は酒を飲んで眠るようになった。
 
通常、僕は夜眠っているとき夢は見なかった。
まったく見ないということはないのかもしれないが覚えていなかった。
僕が覚えていないというのならそれは見ていないのだろうと思う。
僕には見たものをすべて記憶する能力があるからだ。
 
ただ、酒を飲んで眠ったときは少し違った。
酒を飲んで眠るとそこには扉があった。
扉を開くと、そこで過去に経験した出来事を見ることができた。
子どものときレオンとふざけて酒を飲んだときにそれに気づいたが、起きているときにでも似たようなことはできるのであまり気にしていなかった。
 
だけど僕はいま起きていたくなかった。
ずっと眠っていたかった。
だから僕は酒を飲んで眠り、扉の前に立った。そしていつも同じ場所に行く。
 
それはマリィが熱を出して寝ていたあの日。
マリィが床にケーキをぶちまけて僕に怒った翌日だ。
 
僕はあの日、マリィの部屋に行った。
マリィは風邪薬を飲んで眠っていた。
よく眠っているようなので僕は起こさないで帰ってきた。というよりも、僕は怖かったのだ。
彼女は僕に対して自分の言葉で怒っていた。
僕はその言葉に答えられなかった。
 
しかたがない? 
大儀のため? 
僕のしている仕事はそんなたいそうなものなのだろうか……。
 
とにかく僕は扉を開けてマリィの部屋へ行く。
彼女は眠っている。
僕もそこでいっしょに眠った。


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