第12章 記憶の扉(前編)
新しい赴任地はまだ冬だった。
前の町が少しずつ春っぽい空気になってきたところだったのにまた逆戻りだ。
新しい部屋から町を眺めてみる。
どこへ行ってもたいして代わり映えしないな。人の住んでいるところというのは。
「チョコレート屋ばかり並んだ通りがあったよ。行ってみる?」
町の様子を見に出かけていたレオンが帰ってきて僕に声をかけた。
「うん。教会は?」
「みつけたよ。後で行こう」
僕らはいっしょに町へ出かけ、適当な店で買い物をした。レオンは教会の前で僕に言った。
「じゃあ俺はちょっと約束があるから」
「もう?」
「適当にメシ食って寝ろよ。それじゃーな」
そう言って手を振り楽しそうに町に消えた。僕は教会で願いごとを拾い、部屋に帰った。