第12章 記憶の扉(前編)
「次の赴任地も寒いトコだな。暖かいトコのが女の子が薄着でいいんだけどなぁ」
荷造りをしている僕に、レオンが端末の画面を見ながら声をかけた。僕は答える。
「べつにどっちでも」
「ふむ、正しいな。どっちにもかわいい女の子はいるだろう」
レオンは真面目な顔で答えた。
「僕らのしていることは正しいんだろうか」
ふと思いついたことを言ってみた。
レオンは端末の画面を閉じ、僕の肩をポンと叩いた。
「どうしたんだ? 疲れてるのか? そういえばあのケーキ屋の娘……、ちゃんと消したのか?」
「消したよ」
「ならいいが……。少しのあいだ学校に戻るか? ミシェルが指導すれば後輩たちは喜ぶだろう」
思いのほか真剣にとられてしまったようだ。僕は軽く笑顔を作って答える。
「いや。だいじょうぶ。ちょっと思ったことを言ってみただけ。次にいくところはチョコレートが美味しいらしいよ」
「へー、そうなのか。じゃあ楽しみだな」
そう言ってレオンは僕ににっこりと笑いかけた。
レオンは僕を心配しているのだろう。そんな必要ないのに。
あのケーキ屋の娘……マリィと別れたあのときはさすがに感傷的な気持ちになった。
だけどすべてが終わると僕は思った。
しかたがないんだ。