第10章 言葉にできないもの
部屋で一人になっても、もう涙は出てこなかった。
バスタオルを身体に巻きつけた格好でベッドに腰掛ける。
頭がまるで働かない。
ドライヤーの音が少し聞こえている。
涙は出ないけど胸の奥がずっと痛い。すごく痛い。
「寒いだろ? 中に入ろう」
お風呂場から出てきた彼が、私をベッドに寝かしブランケットをかける。
そっと抱きしめられると、彼の身体があたたかかった。
唇に軽くふれるキスをする。
やわらかい唇と、あたたかい息を感じる。
舌がそっと差し込まれる。
口の中でゆっくりと動く。
彼の唇が、舌が好き。
ミシェルのことがすごく好き。
キスすることがこんなにすごいことだなんて私は知らなかった。
好きな人とキスすることは、きっと素敵なことだろうとは思っていたけれど。
こんなにもすごいことだったなんて。
全部、ぜんぶミシェルが教えてくれたんだよ……。
彼はそっと唇を離す。
私はゆっくりと目を開ける。
彼は私の唇のあたりをぼんやりと見ている。
私は彼の長いまつ毛をじっと見る。
彼はゆっくりと口を開いた。
「僕も……、好き。……マリィのことが。……すごく」
彼は私の瞳を一瞬だけみつめ、やさしく微笑んだ。
そしてまた舌を入れてさっきより少し激しいキスをする。
口の中が……、身体の中が熱い。
耳元に彼の唇が移動する。舌が、唇が、熱い息が、私の肌にあたる。
「はぁ……。あん……」
熱い息が私の口からももれる。