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冬の夕空

第10章 言葉にできないもの


「僕はマリィにあやまらないといけない」
 
髪を洗いながら彼が話し出した。

「約束のくちづけのこと。あれは……してみたかっただけなんだ」

「……そんなこと今さら言われても」

「怒ってる?」

「……なんていうかあきれてる」

「きらいになった?」

「……知ってて聞いてるんでしょ?」

「マリィも僕の心が読めるんだね」
 
彼が私の髪をシャワーで流す。
涙もいっしょに流れた気がした。
 

「きれいな髪だね」
 
ドライヤーをあてながら彼が私の髪を指でとかす。

「ミシェルの髪のほうがきれいだよ」

「これ好き?」

「うん」

「僕のどこが好き?」

「髪」

「それだけ?」

「目」

「他には?」

「……ひみつ」

「教えて」

「……言葉で説明できない」
 
彼は鏡越しににっこりと微笑みかける。

「僕も髪を乾かすから先に出てて」
 
私はじっと彼の目をのぞきこむ。

「こんなびしょびしょの髪でどこにもいかない」
 
そう言って彼は私を軽く抱きしめる。
彼の濡れた髪が頬にあたって少し冷たかった。


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