第9章 殺して
一時間たっても二時間たっても彼は戻ってこなかった。
もうずっと戻ってこないかもしれない。
このまま二度と会えないまま、勝手に記憶を消されるのかもしれない。
もうどうなってもいいからせめてもう一度会いたい……。
玄関の扉にもたれ、座り込んだまま、私は泣き続けた。
翌日、私は風邪をひいたのか熱を出した。頭がすごく痛くて立ち上がるとめまいがする。
彼はやっぱり戻ってこなかった。
最悪だ……、こんなときに熱出して寝込むなんて。
とりあえず仕事は休み、風邪薬を飲んで眠った。
このまま……、目が覚めなければいいのに……。
と思ってもやっぱりちゃんと目は覚めた。
すごくいい夢をみていた気がする。
でもすごくいい夢って、たいてい目が覚めると忘れちゃうんだよね。
薬を飲んで寝たせいか不思議とすっきりした気分だった。
窓を開けてみると澄んだ夕焼け空がひろがっていた。
熱も下がったみたいだし明日は店に顔を出そう。