第8章 だいすき
夜、仕事が終わり店を出ると、ミシェルに声をかけられた。
「おつかれさま」
「え? どうしたの?」
「待ってた。晩ごはん食べに行こう」
そう言って私の手をとった。
「手、冷たい」
私がそう言うと、にっこり笑ってつないだ手を自分のコートのポケットに入れる。私は照れくさくて少しうつむいて笑う。
「ごはん何が好き?」
「わたし? えっと、ハンバーグ……とか」
「僕も好き。行こう」
そう言って歩き出す。
「ミシェルって普通のごはん食べるんだ。お菓子しか食べないのかと思ってた」
「なんでも食べるよ。おいしいものなら」
「じゃあ、一番好きな食べ物なに?」
「ひみつ」
ヤモリの黒焼き? とか?
彼が横から私の目をのぞきこんで言う。
「あ、今いやらしいこと想像した?」
「えっ。ちがうよ、ちがう。全然してないぃ」
「あはは……」
一緒に食事した後、彼は部屋の前まで送ってくれた。私がお茶に誘うと彼は言った。
「あんまり最初からやりすぎると嫌われるらしいから……、今日は帰るね」
「え? いや、そんなつもりじゃ……」
たぶん……。それに、たぶん嫌わないかも。
「おやすみ」
おやすみのキスをして扉の前で別れた。