第6章 *hold feat.笠松
部活が午前中しかない、日曜日。
最近人気の映画を見たいという私の希望で、映画館でデートすることになった。
館内は、人気の映画だけあって大混雑。
「うわ…人多いな。香奈、転ぶなよ。」
「うっ…は、はい…。」
口ではそう言いながらも、今にも人混みに飲まれそうで不安だった。
笠松先輩を見失わないように必死に追いかけたけど、誰かに押されて尻餅をつく。
「笠松先輩、待ってくださ……っ!」
幸い怪我はないけど、人の声で溢れかえる中、笠松先輩に私の声が聞こえたかわからない。
最初は追いかけなきゃと思ってたけど、足がすくんで動けなくなった。
「どうしよ…笠松先輩…っ。」
…置いていかれる。
何となくそう思った。
こんなに人がいるのに、一人ぼっちな気がして、急に不安が押し寄せた。
立つこともできないまま、一人になった私は、ただただ泣きそうになっていた。
──その時。
誰かの影で、天井からの光が遮られた。
聞こえたのは、追いかけていた人の声。
「だから転ぶなよって言っただろ。ほら…立てよ。」
手を引っ張って起き上がらせてくれたのは、笠松先輩だった。
「か、笠松先輩…?」
涙目の私を見て少し驚くも、すぐに呆れたように話を続ける。
「あーもう…。お前、すぐはぐれそうで不安だから、今だけ手繋いでやる。別に、やりたくてやってんじゃないからな!」
そしてそのまま手を離さず、私のペースに合わせて歩いてくれた。
初めて繋がれた手が、震える。
やりたくてやってるわけじゃないのに、ちゃんと恋人繋ぎで、思わず笑ってしまった。