第1章 Trick or Treat?
「いやー、燕尾服着てても真太郎は真太郎だなって思ってさ!」
「当たり前のことを言うな。着ている服が普段と違うからといって、中身まで変わる訳がないだろう」
「フフッ、そうだね!んじゃ、気を取り直して……。トリックオアトリート!お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!!」
私はステッキをビシッと真太郎に向けながら言い放った。
「フンッ。抜かりはないのだよ。既に人事は尽くしている!」
真太郎はドヤ顔をかました後、一旦この場(玄関)から消えて、それからたくさんのお菓子が入っているだろう袋を持って戻ってきた。
手渡された袋の中を見てみると、中身は全て羊羹(ヨウカン)で……。
「ごめん、こんなにいらない…。っていうかハロウィンに和菓子って……」
「何だと!?それは俺がいつも飲んでいるお汁粉の会社の製品だぞ!?」
「知るか!!それにしても加減ってモンがあるでしょーが!!しかも羊羹だけって…。せめて小豆味の他のお菓子も入れときなさいよ!!」
「文句を言うな!」
私と真太郎のくだらない言い争いは暫く続いた。
「人事を尽くして用意したというのに…」
その後、〝お前が喜ぶと思って…〟とかなり小さな声でボソッと呟く真太郎。
たぶん本人は私に聞こえていないと思っているのだろう。
「コレ…、やっぱり全部もらっとく♪」
「最初から素直にそう言えばいいのだよ」
「そっくりそのまま真太郎に返すよ、その言葉!このツンデレ下睫毛」
「俺はツンデレなどというものではない。それに下睫毛が長いのは生まれつきだから仕方ないだろう」
「あー、はいはい。ソーデスネ。じゃあ、そろそろ私行くわ」
「あぁ」
真太郎の仏頂面が少しだけ緩んでるように見えるのは気のせいじゃないよね?
私は最後に「ハッピーハロウィン♪」と言い、真太郎の家を後にした。