第1章 Trick or Treat?
「ちなみに、僕木村さんがインターフォン押してるときから、近くに居ましたよ」
「それなら声掛けてよ!!」
「いえ、あまりにも気付いてもらえないので、悪戯したくなっちゃいまして…」
テツヤはそう言うと頭巾を捲り、やっとテツヤの顔を見ることが出来た。
その表情はいつものポーカーフェイスじゃなくて、どことなく楽しそう。
っていうか、そんな全身真っ黒な格好されてちゃ、ただでさえ影の薄いテツヤを見つけられる訳無いじゃん!
「“トリックオアトリート”って聞く前に悪戯しないでよ、馬鹿ァ!!ほんとにビックリしたんだからね!!」
「確かに凄い悲鳴でしたね。鼓膜が破れるかと思いました」
「だ、だって、お化けとか苦手なんだもん…」
「フフッ、木村さんもたまには可愛いところあるんですね。怖がらせてしまってすみません。お詫びと言っては何ですが、コレをどうぞ」
“たまには”って何だよと思いつつも、テツヤから渡された物を見る。
私の手の平には、バニラ味のさまざまなお菓子の詰め合わせが乗せられていた。
「本当はバニラシェイクをあげたかったのですが、道中溶けてしまうと思ったので。それにお菓子じゃないですし」
「テツヤ好きだもんね!こんなにたくさんありがとう♪」
「いえ。そういうイベントなので」
「色々とビックリさせられたけど、やっぱりテツヤの所に最初に来て良かった!」
「僕が1番目、ですか…?」
「うん?そうだよ!」
「そう、ですか…」
テツヤは少し目を細め、嬉しそうに微笑んだ(そう見えるだけかもしんないけど)。
「じゃあ、次行ってくるね!」
「はい、お気を付けて」
私は最後に「ハッピーハロウィーン♪」と言いながらステッキを振り回し、テツヤの家を後にした。