第2章 ヘンゼルとグレーテル
「桃井!何をぐずぐずしているのだ。さっさと火を焚くのだよ!」
緑間が包丁を研ぎながら怒鳴りますが、いくら怒鳴られても、さつきは悲しすぎててきぱきと出来ません。
さつきがいつまでものろのろやっているので、緑間は腹を立てました。
(召使いにでもしてやろうと思ったが、これでは役に立たないな。桃井もついでに食べてしまおう)
ちょうどパン焼き釜の火が燃えていたので、緑間はさつきに言いつけました。
「他の事はいいから、パンが焼けるかどうか釜戸の中へ入って火加減を見てくれ」
緑間はさつきを釜戸で丸焼きにし食べるつもりだったのです。
さつきはすぐにそれに気がつきました。
「ミドリン、私釜戸にどうやって入るのか分かんないよ」
わざと首を傾げながら緑間に尋ねます。
「何?そんなものも分からないのか?ハァ…。仕方ない、教えてやろう。こうやって少し体を屈めれば、誰でも入れるのだよ」
と、緑間は釜戸の入り口へ頭を突っ込んで見せました。
(今だわ!)
するとさつきは、緑間を力任せに後ろから突き飛ばしました。
「なっ…!?ぐぁあああっ」
釜戸に転げ落ちた緑間は苦しそうな叫び声を上げると、そのまま焼け死んでしまいました。