第3章 Lost in the city.
きっかけは先日、わたしが初めてバーナビー……弟と、病院の外に出たとき(というか、彼の家を訪れたとき)のこと。これから共に暮らすのだからと、近いうちにわたしのぶんのあれこれを買いに行こうということになった。
その近いうち、というのが、今日。
とりあえず、とバーナビーが用意してくれた服に着替え、ふたりで家を出たわたしたち。街に出て日用品の買い物を終えてからしばらく、並んで歩いていたはずなのに、いつのまにか、わたしの隣から、バーナビーが消えてしまったのだ。
食器やら何やら、大荷物を全て引き受けてくれた彼は、背も高いし目立つ赤い服を着ていたはずなのに、どうしてみつけられないのだろう。
「…………どうしよう」
途方に暮れたわたしの口からもれたのは、やっぱりその一言だった。正直なところ、彼のあとについてきていただけだったので、帰り方すらわからない。目覚めたばかりのわたしはもちろん、携帯電話なども持っていないのだ。
つまり完全に、手詰まり。
「わたし……もしかして、二度と帰れないんじゃ」
ふと浮かんだ恐ろしい考えは、口にすると途端、現実味を帯びる。それを吹き飛ばすようにぶんぶんと頭を振り、わたしはもう一度、辺りを見回した。
探し人は、やはり、その影すらなく。
「…………んん、」
何度目かの、どうしよう、が口をついてしまう。
それと同時に、ぽん、と誰かが、わたしの肩に触れた。
「!」
驚いて振り返ると、そこには見知らぬハニーブロンドの少年が。
「あ、あの……すみません、なんだか困ってるようだったので……」
ややおどおどとした様子の彼はそれでも、どうしたんですか、と声をかけてくれた。わたしはしばし瞬いて問いへの答えを探し、弟とはぐれてしまったこと、連絡手段がないことを伝える。
「はぐれるだなんて思っていなかったから、どうしたらいいかわからなくって」
「なるほど、迷子ですか……」
ならば動かない方がいい、というのが、彼の意見だった。たしかに、自分がどこにいるのかすらわからないわたしが探し回るよりは、バーナビーがわたしを見つけてくれるのを待つ方が確実だ。