第3章 Lost in the city.
それから待つこと、十数分。
「姉さんっ!」
ここ数日で耳に馴染んだ声が、わたしを呼ぶ。確認する前に暖かいものに包まれ、視界が真っ暗になってしまった。
「ば、バーナビー?」
くぐもった声に、自分が抱き締められているのだと理解し、バーナビー(と思われるひと)の背中を軽く叩く。彼は力が強いから、少しだけ、息苦しいのだ。
「姉さん、よかった、姉さん……っ!」
緩められた腕から顔をあげれば、泣きそうな表情でわたしを見つめるバーナビーが視界を占める。
「感動の再会でござる……」
その端に見切れるように、バーナビーを呼んでくれた少年がほろりと目元を拭っていた。
「な、なにも泣かなくっても……」
どちらへともなく呟けば、「だって」と不満げな、不安げな、バーナビーの声。
「また、姉さんを失ってしまうなんて……そんなの、耐えられません」
「バーナビー……」
そうだ、たしかわたしが眠っていた(らしい)間、およそ20年。それを彼は、たった一人で過ごしてきたのだと言っていた。悪いことを、してしまったかもしれない。
彼にとっては、たかが迷子、では済ませることのできないトラウマがあるのだろう。
「最初に携帯を買いにいくべきでした。今日中に、用意しましょうね」
真剣に語るバーナビーへ、気付くと手を伸ばしていた。ぽふ、と柔らかい髪を撫でれば、自然と笑みが浮かぶ。
「……だぁいじょうぶ。お姉ちゃん、もうバーナビーをひとりになんて、しないんだから」
「本当、ですか?」
「もちろんよ。約束……ね?」
こくり、頷いた彼と小指を絡め、もう一度その頭を撫でてみる。
それだけで安心できたらしいバーナビーも、ふわりと笑顔になってくれた。