第1章 Who are you?
「僕は、バーナビー・ブルックスJr.……そしてあなたは、僕の姉さんなんです」
簡潔な説明に、わたしは首を捻る。
「姉さん……ずっと、ずっと、あなたが目覚めるのを待っていたんです。父さんと母さんが殺されたあの日から、ずっと……!」
必死なようすで言葉を紡ぐ、わたしの弟らしい青年――バーナビー、さん。彼はわたしの目を覗き込んで、思い出して、と何度も続けた。
けれどわたしに還ってくる記憶はひとつもなく、名前すら、彼に聞いて初めて知ったような心地なのだ。
正直に伝えると、彼は落胆したかのように、そうですか、と力なく呟いた。
「でも……」
そんな青年の様子を目の当たりにして、ぽつり、わたしの口から言葉が漏れる。
「……あなたがそうだと言うのなら、きっと、わたしはあなたのお姉さんなのね」
決して、彼がかわいそうだから、などという理由ではない。
わたしには記憶というものが一切なく、先程目覚めるまでに、どこで何をしていたか、自分が何者なのか、全くわからないから……だから、唯一わたしを知るらしい、彼のことを信じることにしたのだ。
彼がわたしを騙すメリットも、嘘をつく理由も、きっと、ない。
「わたしは、・ブルックス……あなたの、お姉さん」
自分に言い聞かせるように、教え込むように。
繰り返したわたしに、バーナビーは、その美しい瞳から、ついに一筋の涙を溢した。